認知症対策 成年後見制度と民事信託について

 今、日本は世界に類を見ない超高齢化社会へと突入していますが、それに伴い「認知症」の患者数も増えてきており、75歳以上の方は7人に1人が認知症を患っているという結果が出ています。(厚生労働省「平成28年高齢社会白書」

 認知症の方々を保護するための制度としては、成年後見制度という制度があり、この成年後見制度はさらに法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類の形態があります。また、昨今、民事信託の利用が少しずつ広がってきており、法定後見とも任意後見とも異なる第3の方法として注目を集めています。

 そこで本ページでは、まず「成年後見制度とは何か」「法定後見制度とは何か」「任意後見制度とは何か」という成年後見制度の概要について説明した後、「民事信託を使った認知症対策とはどのようなものか」という点について説明させていただきます。

 本ページが、認知症の対策について1人でも多くの方が考えていただくきっかけになれば幸いです。


【本ページの目次】


成年後見制度とは

 成年後見制度とは、認知症など判断能力が不十分な方々の代わりに、代理人(成年後見人)が「財産の管理」「身上監護(老人ホームの入居に関する契約や介護サービスを受けるための手続き等)」等を行うことにより、認知症等の方を保護・支援していく制度のことです。

成年後見制度のイメージ

 ところで成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類の制度に分かれています。この2種類の制度の概要は、下記のとおりです。(※違いを理解するポイントとして、「認知症になる前かなった後か」「本人を守る代理人は誰が選ぶのか」という点にご注目ください。


法定後見制度  →詳しくはこちら
「認知症等に既になっている場合(判断能力が既に不十分な場合)」に、「家庭裁判所」が代理人(成年後見人等)を選び、本人を保護する制度
任意後見制度  →詳しくはこちら
「認知症等になる前(判断能力がまだあるとき)」に、あらかじめ「自分」で代理人(任意後見人)を選んで契約を結び、実際に認知症等になった場合(判断能力が実際に不十分になった場合)に、その代理人が本人を保護する制度。

法定後見制度とは

 法定後見制度とは既に認知症等で判断能力が不十分になっている方を保護するため、家庭裁判所が代理人を選任し、当該代理人が本人に代わり財産管理等を行っていく制度です。

代理人の種類

 家庭裁判所が選任する代理人は、判断能力の程度に応じ、「成年後見人」「保佐人」「補助人」の3通りに分かれます。それぞれの代理人の違いは、下記の表のとおりです。

代理人の種類 選ばれる要件 判断能力の低下度合い(イメージ)
成年後見人 本人の判断能力が「欠けている」場合に選ばれる代理人 重い
保佐人 本人の判断能力が「著しく不十分」な場合に選ばれる代理人 比較的重い
補助人 本人の判断能力が「不十分」な場合に選ばれる代理人 比較的軽い

 現状としては、成年後見人が代理人として選ばれる場合が非常に多いため、本ページでは成年後見人の制度を念頭に法定後見制度についての説明させていただきます。

成年後見人は本人を保護するためどのようなことを行うのか

 では、成年後見人は認知症等の方を保護するために、具体的には、どのようなことを行うのでしょうか。

 成年後見人は本人に代わり、「財産管理」と「身上監護」を行います。また、成年後見人は本人が行った法律行為について取消す権限(取消権)があります。具体的には下記のとおりです。

財産管理
具体例:預貯金・金融商品の管理、年金受給の管理、税務処理、不動産の管理等
身上監護
具体例:住居の契約や事務手続き、医療や介護の契約や事務手続き等(実際の介護行為や身の回りお世話は成年後見人の職務ではありません。そのようなサービスを受けられるよう手続きを行うことが、成年後見人の仕事になります。)
取消権
原則、本人が行った全ての法律行為を取り消すことができます。ただし、①日用品の購入その他日常生活に関する行為、②身分行為(婚姻や認知等)については取り消すことはできません。

成年後見人の注意点

 法定後見制度は、あくまで判断能力が不十分な本人を保護する制度であり、周りのご家族等の利益のための制度ではありません。そのため、法定後見制度を利用するにあたっては、下記のようなことについて注意が必要です。

成年後見人が誰になるかは、家庭裁判所が決定します
 成年後見人は家庭裁判所が選任することになります。家庭裁判所へ候補者を提出することはできますが、その候補者が選ばれるとは限りませんので(面識の全くない専門家が選ばれる可能性もあります)注意が必要です。
本人の財産を自由に運用等することはできなくなります
 成年後見人は、本人の財産を「守る」ために財産管理をおこないます。そのため、「資産の運用行為(本人の財産を減らす可能性がある行為)」「生前贈与等の相続税対策(相続人の利益のための行為であり、本人のための行為でない)」「家族への利益供与(家族の利益のための行為であり、本人のための行為でない)」等は原則できなくなります
成年後見人は家庭裁判所へ定期的に財産状況を報告する必要があります
 成年後見人は本人の財産管理を行うため、本人から実際に預金通帳等を預かることとなります。そのため、成年後見人の不正が起こらないよう、成年後見人定期的に家庭裁判所へ財産状況を報告する必要があります。ご親族等一般の方が成年後見人に就いた場合、このような手続きに慣れていない方は負担に感じる場合もありますので、ある程度の負担を覚悟する必要があります。
成年後見人はご本人が亡くなるまで原則辞任することができません
 成年後見人は、正当な事由がある際に、家庭裁判所の許可を得た場合に限り辞任することができるとされております。一般の方が成年後見人になった場合、「手続きが面倒だから」「思っていた制度と違うから」というような理由では辞任することはできませんので注意が必要です。また、遺産分割協議や不動産の売却のために成年後見制度を利用しようとしている場合は、その手続きが終わった後も、成年後見人の財産管理亡くなるまで続くということを念頭に入れる必要があります。

任意後見制度とは

 任意後見制度とは認知症等判断能力が不十分になる前に、あらかじめ自分で代理人(任意後見人)を選んで契約しておく制度です。

 そして、実際に認知症等で判断能力が不十分になった場合に、契約していた代理人(任意後見人)が本人に代わり財産管理等を行っていきます。


任意後見制度の手続きの流れと概要

認知症等になる前に、将来自分の財産管理や身上監護を代理して行ってほしい人契約公正証書で結びます。将来の代理人(任意後見人)が行使できる代理権の範囲は、個別具体的に定めることもできますし、包括的に定めることもできます。

任意後見契約の締結

 

実際に認知症等になり判断能力が低下した場合、本人・配偶者等の親族・将来の代理人(任意後見人)が、家庭裁判所に任意後見監督人(※)の選任を申し立てます。そして実際に任意後見監督人選任されると任意後見契約の効力が発生し、当該契約に基づき、代理人(任意後見人)が本人の財産管理や身上監護を行います。

(※)任意後見監督人とは、代理人(任意後見人)の事務を監督し、その事務に関して家庭裁判所に定期的に報告をする者のことです。

任意後見の効力発生

任意後見制度の注意点

 任意後見制度は自分自身で代理人を選ぶことができ、ご本人の意思を尊重できる大変有用な制度ですが、下記事項について注意が必要です。

本人が認知症になった後(判断能力が低下した後)は利用できません
 任意後見制度は、本人と将来の代理人(任意後見人)が、判断能力低下前に契約を結ぶ必要があります。契約行為は、判断能力が低下している者は行うことができないため、必然的に認知症になった後(判断能力低下後)は任意後見制度が利用できないということになります。
本人の判断能力が低下するまで効力が発生しません
 任意後見制度は本人の判断能力が低下した場合効力が発生します。そのため「判断能力はしっかりしているが、(高齢等で)身体的に日常生活等が厳しいので、財産管理をお願いしたい」という場合、任意後見制度で対応することはできません。(このような場合に備えて、当事務所では任意後見制度とは別に、任意の委任契約を締結しておくことを薦めています。)
任意後見人には取消権がありません
 成年後見人は、本人が行った法律行為について取消権がありますが、任意後見人には取消権ありません

民事信託を使った認知症対策とは

 民事信託の制度を利用し、認知症の事前対策を行うこともできます。

 一般的な方法としては、「将来認知症になる可能性のある本人を委託者兼受益者」とし、「信頼のできる家族等を受託者」とする民事信託契約を結ぶことにより、実際に本人が認知症になってしまった場合でも、受託者が契約目的に基づき資産の運用・処分等を行い、契約時の本人の希望を叶えていくというものです。

 活用例を見ながら、民事信託を使った認知症対策とはどのようなものか確認していきましょう。

民事信託の概要についてはこちら


民事信託を使った認知症対策 活用例

①自宅や預貯金等、多額の財産を所有している長野太郎さん。将来、自宅を売却し、老人ホームに入居したいと考えていました。

②しかしながら、自身が認知症になった場合、自宅を売却することができず、仮に成年後見制度を利用した場合でも、裁判所の判断によっては売却が難しいことを知りました。

※成年後見人が、認知症の方の代理人として、認知症の方の自宅を売却する場合、家庭裁判所の許可が必要になります。(民法859条の3)

③そこで民事信託を利用し、認知症の事前対策を行うこととしました。まず、長女の花子さんと民事信託の契約を交わし、花子さんが自宅を管理・処分できることとしました。

民事信託を使った認知症対策

④そして受益者を長野太郎さんとし、その利益を受ける権利を長野太郎さんとしておくことにより、万が一長野太郎さんが認知症になってしまっても、長野花子さんが長野太郎さんの自宅を売却することにより老人ホームの入居資金を確保することができました。

民事信託を使った認知症対策


 このような形で、認知症になる前に、信頼できる人と民事信託の契約を結んでおくことで、委託者が認知症になっても、資産の運用や処分を行うことができるのです。


まとめ~各制度の比較と大切なポイント~

 認知症対策として「法定後見制度」「任意後見制度」「民事信託」の3通りの制度について、上記のとおり確認いたしましたが、どの制度を利用すれば良いかは、各々の状況により正解が異なります。

 そして、最も大切なことは、

認知症になる前に、どの制度を使いたいかしっかり確認すること

 と当事務所では考えています。なぜならば、認知症になる前であれば3通りの制度から自由に選ぶことができますが、認知症になった後では、「法定後見制度」しか利用できないためです。

 残りの人生を、ご自身の悔いの残らない人生にするために、ぜひ各制度の検討を事前にしていただければと思います。

 なお、各制度の比較表を下記のとおり掲載しておりますので、検討の際の参考にしていただければ幸いです。

  法定後見 任意後見 民事信託
認知症になる前か後か 認知症になった後 認知症になる前
※認知症になった後は利用不可
認知症になる前
※認知症になった後は利用不可
権限 ①財産管理
②身上監護
③取消権
①財産管理
②身上監護
①財産管理、運用、処分
財産管理者 家庭裁判所が選任した者 事前に契約した者 事前に契約した者
上記の者への報酬 あり 契約による
※後見監督人はあり
契約による
財産管理の方法 運用や本人のためでない処分等は不可 運用や本人のためでない処分等は不可 契約の目的に従い自由に運用・処分できる
家庭裁判所への報告 あり あり なし